魚が水中で息ができる「なぜ?」を探究する:子供の疑問から広がる学びのヒント
子供の素朴な疑問から始まる探究「魚はなぜ水の中で息ができるの?」
子供たちは、自分たちの住む世界とは異なる環境に生きる生き物、特に魚の存在に興味を持つことがあります。「人間は水の中で息ができないのに、なぜ魚は大丈夫なのだろう?」という素朴な疑問は、生物の多様性、体の仕組み、そして生命活動に必要なものについて考える絶好の機会となります。この疑問を起点とした探究活動は、子供たちの知的好奇心を刺激し、深い学びに繋がる可能性を秘めています。
日々の授業で子供たちの「なぜ?」を大切にし、探究的な学びを支援したいと考える小学校教員の方々にとって、このような疑問をどのように扱い、学びへと展開していくかは常に課題かもしれません。本記事では、「魚が水中で息ができる」という疑問を掘り下げ、子供たちの探究心を育むための具体的な問いかけの例と、実践しやすいアクティビティのアイデアをご紹介します。
疑問を深める問いかけの例
「魚はなぜ水の中で息ができるの?」という疑問に対して、すぐに答えを教えるのではなく、子供たちが自分で考え、調べ、さらに疑問を広げられるような問いかけをすることが重要です。以下に、いくつかの問いかけ例とその意図を示します。
- 「人間が水の中で息をしようとするとどうなるかな?」
- 意図:自分たちの経験や知識と魚を比較することで、違いに気づき、魚の特殊性を認識させます。呼吸の仕組みの違いに目を向けさせます。
- 「魚の体のどこを使って息をしているのかな?知っていることはある?」
- 意図:事前知識や観察から得られる情報を引き出します。「エラ」という言葉が出てくるかもしれません。体の部位と機能の関係に意識を向けさせます。
- 「エラってどんな形をしているのかな?どんな働きをしているんだろう?」
- 意図:具体的な器官に焦点を当て、その構造や機能を調べる必要性を促します。図鑑や映像資料の活用を促す問いかけです。
- 「魚はどうやって水の中から『空気』(酸素)を取り出しているのかな?」
- 意図:呼吸の本質(酸素を取り込むこと)と、それが水中という環境でどのように行われるのか、メカニズムについて考えるように促します。水に酸素が溶けているという科学的な事実への導入にもなり得ます。
- 「水の中には、魚のほかにどんな生き物がいるかな?それらの生き物も同じように息をしているのかな?」
- 意図:思考を広げ、他の水生生物との比較を通じて、生物の多様性や環境への適応について考える機会を与えます。水生昆虫や両生類など、様々な生き物の呼吸法があることに気づかせます。
- 「もし、魚を水から出したらどうなるだろう?それはなぜ?」
- 意図:環境と生物の関係、そして魚が水中で生きることに特化しているという点について深く考えさせます。呼吸器官と環境の結びつきを理解する助けとなります。
これらの問いかけは、子供たちの年齢や興味、クラスの状況に応じて調整し、対話を通じて進めることが効果的です。答えを急がせず、「どう思う?」「なぜそう考えたの?」と問い返し、子供たちの考えを引き出すことを大切にしてください。
具体的なアクティビティ例
疑問を深める問いかけと合わせて、体験や観察を伴うアクティビティを取り入れることで、子供たちの学びはより豊かになります。
アクティビティ例1:魚の体のつくりを観察しよう
- 目的: 魚の体の外部と内部のつくり、特にエラの位置や形状について具体的に理解を深める。
- 準備物: 魚の図鑑(複数種類あると良い)、魚の体の構造がわかるポスターやイラスト、可能であれば本物の魚(スーパーなどで購入できるアジなど)または鮮明な魚のエラの写真・動画、ピンセット(本物の魚を観察する場合)、ビニール手袋。
- 手順:
- 図鑑やポスターで魚の全体像と各部の名称を確認します。エラがどこにあるかに注目させます。
- 本物の魚(または写真・動画)を使って、エラのフタの動きや、エラの内部のひだ状の構造を観察します。ピンセットで優しくエラを広げて見せることも考えられます(安全に配慮し、触る場合は手袋を使用)。
- 観察を通して気づいたこと、不思議に思ったことを発表したり、絵や文章で記録したりします。
- 留意点: 本物の魚を使用する場合は、鮮度や衛生面に十分配慮し、観察後は適切に処理します。アレルギーの有無も確認が必要です。無理に触らせず、観察を中心に進めます。
- 発展: 他の生き物(カエル、昆虫など)の呼吸器官についても調べ、比較してみます。
アクティビティ例2:水に溶けている酸素を考える実験
- 目的: 目に見えない「水に溶けている酸素」の存在について考え、魚がそれを利用している仕組みへの理解につなげる。
- 準備物: 透明なコップ、水(水道水、しばらく置いてカルキを抜いた水など)、お湯(約40-50℃程度)、氷水、熱源(カセットコンロなど)※大人が扱う、試験管(または細長い透明なビン)、線香。
- 手順:
- コップに水道水を入れ、しばらく置いておくと、コップの内側に小さな泡がたくさんつくことに気づかせます。この泡が水に溶けていた空気(主に酸素)であることを説明します。
- 温かいお湯を冷ます過程や、氷水を作る過程でも同様の泡が出やすいことを観察します(温度が低い方が酸素が多く溶けることを示唆できますが、この段階では泡が出る現象に注目するだけでも良いでしょう)。
- (発展)試験管に水を入れ、軽く熱します(沸騰させない)。水温が上がるにつれて溶けていた空気が泡になって出てくる様子を観察します。
- (さらに発展、安全に注意)試験管に水を満たし、沸騰させてしばらく加熱し、水に溶けている空気を追い出します。冷ましてから、線香の火を消した直後の煙(酸素がないと燃えない)を試験管の口に入れると、再び火がつくか試します。溶けている空気が少ない水では火がつきにくいことを確認し、水に酸素が溶けていることを示唆します。
- 留意点: 熱湯や火の取り扱いには十分な安全配慮と大人の厳重な監督が必要です。実験は子供たちの年齢や理解度に合わせて内容や難易度を調整してください。必ずしもすべての実験を行う必要はありません。
- 発展: 炭酸水の中に溶けている気体(二酸化炭素)と比較したり、水温と溶ける気体の量の関係について調べたりします。
実践へのヒント
限られた授業時間の中で探究活動を取り入れるためには、工夫が必要です。
- 導入の時間を短く: 子供たちの「なぜ?」を捉えたら、すぐに探究の入り口に立ちます。全ての子供が同じ疑問を持つとは限らないため、提示された疑問に関心を持ってもらうための簡単な問いかけから始めます。
- アクティビティの選択と集中: 全てのアクティビティを行う必要はありません。子供たちの興味やクラスの状況に合わせて、最も効果的なものを選び、時間を区切って実施します。
- 調べ学習との連携: 図鑑やインターネット(安全なサイト、大人の管理下で)を使った調べ学習と組み合わせることで、知識の定着と探究の深化を図れます。図書館や博物館との連携も有効です。
- アウトプットの多様化: 調べたことや考えたことを、言葉だけでなく、絵、図、粘土、簡単な模型、発表、レポートなど、様々な方法で表現する機会を設けます。
- プロセスを評価: 結果だけでなく、疑問を持ち、調べ、考え、表現する過程そのものを認め、励ますことで、子供たちの主体性を引き出します。
まとめ
子供たちの「なぜ、魚は水の中で息ができるのだろう?」という疑問は、生物の不思議な仕組み、体のつくりと働き、環境への適応など、多様な学びへと繋がる扉を開きます。この疑問を大切にし、具体的な問いかけや実践的なアクティビティを通して子供たちの探究を支援することで、受動的な学習から能動的な学びへと子供たちを導くことができます。
ここで紹介した問いかけやアクティビティはあくまで一例です。これらのアイデアを参考に、目の前の子供たちの興味や疑問に寄り添いながら、それぞれのクラスや家庭に合った形で探究活動を展開してみてください。子供たちの「なぜ?」が、尽きることのない学びの源泉となることを願っています。